上橋菜穂子さん『狐笛のかなた』(新潮社)を久しぶりに再読しました。確か最初は大学生頃に買って読んだような。
児童文学というカテゴリーに入るのだと思いますが、ひたすらに優しい物語ではなく、人間のどろどろした争いが背景にはあります。
やさしさ、ずるさ、くるしさ、かなしさ、うらみやにくしみ、子を思う気持ち、好きな人を助けたいと思う気持ち、怒り…
負の面もふくめたいろんな感情が生き生きとと描かれています。
それでもなお、読んでいる間ずっと光というかあたたかさを感じる、とてもやさしい物語だと思いました。
つよいキャラクターたち
上橋さんの物語はどれもそうだと思うのですが、主人公やその他のキャラクターたちが、人生とがっぷり四つに組みあって、必死に生きている姿が印象的です。
この作品は日本の室町時代っぽい世界(勝手な感想ですが)が舞台となっています。領主たちの土地争い、それに巻き込まれる主人公たちがどう立ち向かうのか、というのが物語の大枠です。
苦しみ迷いながらも、流されずに自分の芯に従って立ち向かう、そんな姿勢がとてもまぶしいです。一か所だけ引用させてください。
「逃げたほうが、いいのかもしれない。でも、小春丸は、どうなるんだろう。大朗さんや、鈴さんは――逃げられないみんなは……」
顔をあげて、小夜は野火を見た。
「あなたの主人は、みんなを殺そうとしているのでしょう?」
野火は、うなずいた。
「……逃げても」
小夜は、ぽつんといった。
「わたし……生きている気もちになれないと思う」
最後に
キャラクターもそうですが、世界観も魅力的で豊かな作品です。日本の里山の自然でしょうか、その世界の描写が素敵で、美しくて胸がきゅっとなります。
人生に取り組む勇気、栄養をもらえた気がします。
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